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みやこのエコツーリズム

オーストラリア エコツアーのメッカ ケアンズ

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1、ケアンズの町の特性

オーストラリアの北部 東海岸にクイーンズランド州ケアンズ市がある。数十年前まではほとんど人がいない、貧しいサトウキビ畑の土地だった。しかし世界最大のさんご礁地帯のグレートバリアリーフ、世界最古の広大な熱帯雨林という、貴重な海と山の双方を持つ宝を観光地として人々が気づき始めてから、リゾートとして目覚しい発展と人口増加を見ている。経済的規模として世界トップのエコツーリズムサイトである。

2、自然と街の発展との共生

自然が売り物の観光で成り立っている街であるとの自覚が住民の意識に非常に強い。サトウキビの世界的な減産傾向、価格の下落の中で、サトウキビ産業が衰退し、観光が街経済を支えていて、何らかの形で、住民は、観光とのかかわりの中で仕事をしている状況だ。

2、街の開発

リゾート施設として、ホテルやマンション、店舗などの建物が次々と建設される中で、規制が非常に強いこことに驚いた。緑化率、建物の色、排水基準、高さなど、厳しい基準と審査があり、景観・自然保護に対しての企業に厳しい行動が求められている。京都よりもはるかに厳しい。それに対する住民の監視意識も強い。細かい所でも住民の抗議行動が行われている。

例えば、スカイレールという、熱帯雨林を上から眺める、ゴンドラが電気で運行している。建設の時は、熱帯雨林の生態調査を詳細に行い、支柱を立てる場所を細心の注意で選び、熱帯雨林を傷つけないように、資材を空中から運び、種子を靴や服から事前に落とし、支柱を立てるサークル以外は一切足を踏まないなど、徹底して環境に配慮した工事を行った。コストは普通の工事に比べて大幅にかかっている。途中2回停車駅があって、熱帯雨林の中を散歩できる。木のボードと手すりが地面に敷いてあって、ボードの敷かれた所以外一切行けない。そうすることによって、熱帯雨林へのダメージを最小限に抑えている。開設されてから、7年ほど経っているが、熱帯雨林への環境悪化のデータは出ていない。この建設方法だと悪化する余地がない印象を見ただけで感じる。そのままの姿で熱帯雨林がうっそうを眼下に見渡す限りさえぎるものなく広がっているからだ。片道60分かかるこのゴンドラは、大人一人でなんと4千円近くかかる。それでも、多くの観光客が常に並んで乗っている。稼働率100パーセントと言う感じだ。そして、配られるパンフレットは、6カ国語別になっていて、「環境に配慮しているから皆さんも最新の注意を払って乗ってほしい」という文面に溢れている。建設費を安くし、乗車運賃を安くするという手法ではなく、環境ダメージを最小限に抑えるため、必要なコストを十分にかけて、それを、乗車する人にしっかり払ってもらうという考え方である。乗客もそれを十分に理解させられて、乗っている。日本にはこのような考え方がほとんどないのはとても残念である。

3、エコツアーの充実

世界の国でエコツアーの種類、催行会社の数、参加人数は、ここが間違いなくトップだと思う。ケアンズの中心地を歩けば、一周1時間で回れてしまう小さなタウンの中に旅行会社がたくさんある。催行会社と観光客をつなげる、エコツアーデスクの役目である。各社のパンフレットが所狭しとひしめき、競争も激しい。各ホテルにも必ずツアーデスクがある。観光客はふらっとそこを訪れ、観光客の要望にそって、明日のエコツアーの予約を多くのメニューから選んで入れることが出来る。もちろんどのホテルでも、ツアーパンフレットが並んでいて、ホテル内でも予約を受け付けてくれる。どのホテルに滞在していても、それぞれのツアーバスがやってきて、各ホテルを順繰り回ってお客を送迎していく。昼食は、レストランを使用することもあるが、野外でバーベキューというのも、全種類ツアーの半分くらいある。バーベキュー場はたいがい民間の持ち主から借り、あらかじめ人を雇って、お客がそこに付いた時には、きれいに料理が出来上がっている。どのツアーもゴミはその場でどんな小さなものでも残さない、出さない事は徹底していた。排水も一切出さない。なぜなら下調理は別の場所で行い、その場では焼くだけ、温めるだけぐらいの調理しかしないからである。全部ゴミ袋に入れて、何も残さない状態まできれいに清掃して帰る。火を使えないエリアもたくさんあって、そこでは、大きなケースに調理済みの食事を入れて、残飯も含めてきれいに持ち帰っている。個人で勝手に行けるほど、道は簡単ではなく、許可がないと入れない場所も多く、観光客はほとんどツアーに参加している。そのお陰で、ゴミがツアー中フィールドに落ちていると言うことは全くない。もし仮に意識の低い参加者がゴミを落としても、ガイドがその場所を引き上げる時に必ず確認して、持ち帰っている。これは私が驚くほど、どのツアーに参加しても徹底していた。もし個人で勝手にフィールドを訪れれば、日本のように、ゴミがいたるところに残っている状態になっているだろう。ツアーに参加することによって、観光客の行動が完全に管理されている。そのことによって、自然が守られていることに感激した。だから、エコツーリズムではインタープリターが不可欠なくらい重要なのだ。参加費は日本人の感覚で言えば高い。一人一日プログラムで1万円から2万円である。そのくらいの金額がビジネスとして行うには、最低限必要なのである。日本で、ツアーに一日2万円を支払う感覚を観光客にどのように育てていくのか、大きな課題であると思っている。

4、エコツアーの採算化

競争が激しいため、顧客満足度、採算にあわせるための努力はどこも非常に行っている。営業活動、値引き活動、広報活動は積極的だまた、倒産するツアー会社も後を絶たないし、次々新しいツアー会社も生まれている。そのため、マイナス面として、流れ作業的なツアーの実施側面は出ていると感じた。いろんなツアー会社のガイドがひっきりなしにホテルに迎えに来て、お客をホテルでどんどん拾っていく。ベルトコンベアーの流れ作業のような感覚に陥る。さらに参加者が少なければ、運転しながらガイドが解説する。昼食を食べて、また解説する。お客をホテルに送る。これが流れ作業のように思えてしまうのだ。オーストラリアの気質かもしれないが、きめ細かい心のおもてなしというよりは、おおらかで、陽気な解説という感じである。ガイドも多く、そのレベルもピンからきりまであって、インタープリターとはおよそ呼べない低いレベルの人にも正直当たった。そうするとツアーの設計がどれだけ完成度が高くても、ツアーへの満足度は低いものとなってしまった。会社組織化し、ビジネスとしてやっていく場合、インタープリターの質をどのように高めていくのか、大きな課題であることがわかった。

4、認証制度

そのような課題を克服すべく、オーストラリアでは、すでに10年前に、エコツーリズム認証制度(NEAP)を作っている。世界で初めてのエコツーリズム認証制度である。レベル別に「必須」「上級」の2段階になっている。自主申告制度が基本となっていて、認証の継続については、無作為監査も行われている。でもやはり、自主申告制のため、その質が担保できない課題は残っている。ケアンズにおいて、この認証を取得しているツアー会社はごく少数であるし、取得している所としていない所で、差があるかどうかというのも、参加しても分からなかった。取得していない所も、他会社と競争意識が働いているため、この認証制度は、しっかり参考にしている。だから自主申告ではなく、監査が全て必要だし、ガイド個人の資質に対しても厳しく監査が必要だと感じる。その上で、多くのツアー会社に取得が広がることが必要である。

5、先住民族との関わり

オーストラリアにはアボリジニと言われる先住民族がいる。彼らは、迫害され、苦しい生活を強いられ、アボリジニとしての自尊心を失っている人が多かった。ところが、アボリジニの伝統的な生活、生き方に光をあて、価値を見出し、観光客と共有しようというこの10年ほどの試みが、ケアンズでかなり成功している。アボリジニのケアンズ近郊をフィールドにしていたジャポカイ族と接触し、粘り強く説得し、ジャポカイ族の生活を見てもらう施設(名前「ジャポカイ」)を、ジャポカイ族が所有し、使われることなく荒れ果てていた広大な土地を使って作った。最初、ジャポカイの人は「どうして見世物にされなくてはならないのか」「こんなものを見せて、お金になるのか」と大変な反発だった。しかし実際、ジャポカイの儀式、ジャポカイの伝承を観光客に見せることによって、観光客はジャポカイに人に共感を示し、感激してくれる。惨めで古臭い自分達の生活が、実は非常に価値があって、人に感動と共感を与えることが出来るということを実感した彼らは、生き生きとここで、働くようになった。プログラムは、とにかく体験型で、本物を提供する。お客が本物の槍を投げる、ブーメランを投げる、ジャポカイの漢方講習を受けて薬草や実を味わう。アボリジニの伝統的なボディペインティングの体験、のユーカリの木を使った、伝統楽器ディデュリデュの吹き方講習、アボリジニ点描美術の体験絵付け、体感型の映像を見る。火を囲んだジャポカイの儀式に、ジャポカイ人の気持ちになって参加する。伝統的ダンスのディナーショー。とにかく参加者は、今まで見たことにないものを目の辺りにする。それは、アボリジニが自然に深い敬意を持ち、自然と厳しいまでに共生している姿であり、数千年の歴史を持つことへの重さである。役者やスタッフもほとんどジャポカイ人で、本物が持つ力は、何度繰り返し見ても飽きることがない。入場料2500円程度、ホテルの送迎をつけると、4000円程度で高い。夜のディナーショーは8000円、送迎付だと、1万円近くなる。それでも、いつも盛況である。その収益は、ジャポカイのための地域振興に還元するシステムになっているし、100名近いジャポカイ人の働く機会も提供している。エコツーリズムは地域振興、その地域の宝を掘り起こし、磨くことであると言う理念を見事に実践している成功例である。

6、なんでも観光にしてしまう

なんでも観光にしてしまおうと言う気概は驚く。例えば動物園。何の変哲もない動物園。夜に開けて、夜の動物の生態解説、ディナー、ショー付で開催してしまう。8000円近くそれで払うのだ。盛況である。夜の生態解説だけでは、人は集まらないし、お金もここまで出さない。バーベキューのディナーをつける。飼育員がギターを弾き、カンガルーや、お客と共に歌を歌う。その付加価値をつけることによって、人も集まりお金も集まるのだ。その収益を動物保護にあてる。レジャーの多様化で、入場者が減っている仕方ないとあきらめるのではない。京都の岡崎動物園も京都らしい演出で、夜の開館をまねしてみたらどうだろうか。そういうしなやかな思考力、行動力が、これからの観光に大切だと思うのだ。それぞれの立場でやれることを柔軟に実行していく、その積み重ね、広がりが、エコツーリズムサイトを本物にしていく唯一の手段である感じた。