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みやこのエコツーリズム

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1、30年前にスタート

1978年、宮島さんご夫婦が、北海道真ん中の少し下、山に囲まれた新得の町にやってきた。牛を5、6頭買って、何もないところから始められた。その頃ちょうど、牛乳の生産調整が、政府から指示されて、絞った牛乳を捨てざる得ない時期であった。よそ者が、何でこんな時期に新しく牧場を始めるのか!他の牧場の方から反発を受ける中でのスタートであった。奥さんは、近くの町営住宅に住み、子どもを乳母車に乗せて押しながら、道ない草原を雨の日も風の日も小さな牧場に通い続けたそうだ。毎日同じ草原を通るうちに、次第にその通り道の部分だけ土が見えて、一本につながる道になっていったそうだ。「道」はこのようにしてできるのか!と30年たった今でも、感慨深い発見だったそうだ。ご夫婦が、何もない草原にわずかな牛と共に始めた小さな牧場は、30年経った今、牛が120頭、スタッフ総勢60名の大牧場に育っていった。自労、自活を目指して、30年歩み、創り上げてきた「道」はものすごく、エコツーリズムそのものを具現化した世界であった。

2、ノーマライゼーションの具現化

スタッフの多くは、身体が不自由だったり、精神的に安心できなかったりで、一般の学校や会社に行かなかった人、行きたくない人、牛が飼いたくてやってきた人など、さまざまな人が色々な理由でここに集まってきている。ノーマライゼーションの世界が展開されていた。私を案内してくださった方も、「ここに来て6年ほど、未だにこの牧場で、自分の役割を懸命に模索している。」とおっしゃっている彼にジーンときて、また、牧場という小さな社会で、適応していこうという姿勢を、長い期間で暖かく、自然に見守っていこうとする、宮島さんの姿に深く感動した。細かに次の段取りへの声かけを行っておられるが、あくまでも本人の感性、マイペースに任せておられる。そこに、押し付けやノルマ、思想などは微塵にも見えない。誰が入っていっても、いつでも何かしら出来そうな、居心地の良い、さらさらとした空気が流れている。さまざまな個性とマイペースなスタッフを一つの方向に向かって動かしていく場合、助言は親切にそしてこのマイペースさが逆に彼らの居心地のよさを生み出し、自ら模索する姿勢を長期に保つ力となり、一つの方向性に向かっていく原動力になっていると思った。これは、私たちのウェブで紹介している「京都みどりクラブ」と全く同じコンセプトであり、全く同じ場の雰囲気を受けたのは驚きだった。ノーマライゼーションを進めていくときに、このようなコンセプトが、一見要領が悪く見えたり、非効率に見えたりするけれど、長い目で見ると、この方式以外では出来ないのではないかと感じた。

3、チーズ作りへの熱い思い、スローフードの世界

ホルスタイン種の方が、乳を多く出し、効率がよいが、乳脂肪固形分が高い、質という点で、チーズ作りには、ブラウンスイス牛が適している。こちらにほとんどを切り替えている。さらに牛の飼い方にも強いコンセプトがあった。牛舎が匂わないということ。牛舎は慣れぬ者からすると、糞尿の非常に強い匂いが立ち込めて、かなり苦しい。それが中まで入っても、匂わないのだ。牛の飼料に微生物を配合し、糞尿の匂いを分解させている。牛舎の地面に活性炭を多量に埋め込み匂うを吸着させている。それと、広い牛舎の中を自由に牛が歩き回って、えさを食べ、水を飲むために移動している。これは、牛舎の中で鎖につながれ、ブースに入れられ動くことが出来ない普通の牛舎とは根本的に違う。牛にストレスを極力与えないことがおいしい牛乳を出す秘訣とのことである。飼料も安全性にこだわり、自社牧場で牧草を確保している。搾乳のために朝、夕方搾乳舎に移動する時に、垂れ流しになっている糞尿を一切に掃除する。その糞尿も全部自社牧場内で堆肥化させ、畑作に利用している。広大な畑で多くの種類の作物を極力無農薬で作っている。それを、スタッフが毎日の食卓で食べている。また、子牛が生まれると、普通は売ってしまう。育てても、お乳を出さないかもしれないし、死んでしまうかもしれない。育てる費用の方がかかってしまうからだ。でもここでは、全て最後まで育てている。絞った牛乳は、ほとんど、この牧場で、チーズに加工している。搾乳室で絞った牛乳を、すぐ隣の部屋に運び、チーズに加工する。新鮮度を保つための工夫である。チーズ作りは、牛乳の重量の90パーセントが水分として廃棄されている。それを、ここの牧場では、なんと、牛に全部飲ませているというのだ。だから牧場からゴミが出ない。

4、「ミンタル」 の運営

ミンタルとは、アイヌ語で、広場、人の行きかう場所という意味。自社牧場で生産した、チーズ、パン、お菓子、軽食などの販売、飲食スペース。チーズ作り、パンバター作りの体験工房になっている。2年前のオープンである。平屋建て、木の香りがする素敵な建物である。観光客、修学旅行生や、研修などで多くの来訪者をここで受け入れている。もっとじっくりという人は、ここで短期のファームステイも受け入れている。単に、体験するだけではなく、牧場内の見学と合わせて、牧場のコンセプト、あり方なども詳しくお話される。スタッフが、自社牧場内の世界に閉じこもることなく、常に外部のお客さんと接することで、さまざまな視点、接点を持つことが出来るという効果も強くある。

ここで販売されているチーズは、確かに、非常においしい。一般のスーパーで売られているチーズと根本的に味が違う。今まで食べていたチーズはなんだったのかと思うくらい違う。臭くなく、まろやかで、やさしい、コクのある味だ。ストレスをかけない牛、鮮度を重視した品質管理、えさへのこだわり、お世話する人のマイペースさと実直さ。代表、宮崎望さんのエコツーリズムと入っていないけれど、30年の年月をかけて、エコツーリズムを具現化している信念の確かさと真摯さ。これらが、チーズの味そのものになっていると言わざる得ない。日本のチーズ品評会で最高賞も受賞しているお墨付きである。プロセスの確かさが結果を生み出している。郵送での注文も可能だ。

日本でエコツーリズムを実践している、トップの牧場である。

農事組合法人 共働学舎新得農場

〒081-0038 北海道上川郡新得町字新得9-1

0156-69-5600

共働学舎新得牧場